お客様目線の想像力が付加価値を創る

 あるメーカーのキャリーバッグを8年ほど使い、既に3代目。そして、もしかすると4代目になろうかというところ。ボディーの軽さと収納力が魅力で使っています。「もしかすると4代目?」というのは、現在、取っ手の部分が折れてしまい、修理見積待ち状態です。

 修理依頼でこの会社のサポートセンターに電話をしたのは2度目。5年前になるでしょうか。その時は、「修理を受け付けて、金額の目安を伝え、修理をするかどうかをお客様に決めさせる」センターだったと記憶しています。正直なところ、不愉快すぎて、購入した百貨店を通して、不満をメーカーに伝えたくらいです。

 ですが、この5年間に大きな意識の改革と実務の改善が行われたようです。なにせ、「お使いいただいているときに壊れたのでしょうか?(はい)お荷物をお運びになるのにお困りになりましたよね。(たっぷりと表情を込めて)」という心情の問題に対する浄化が十分に行われたのですから。そこから、お客様の「そうなのよ、出張先の鹿児島から博多に異動する時で、鹿児島中央駅でいきなり折れたから、すごく大変だったの」という長めの話がはじまります。その話を親身な相槌と共感表現で受容してくれました。お客様のストレスが消えていきます。

 さらに、「お客様、お荷物はどのようになさったのでしょうか?」と現実の問題にアプローチしてきます。「しょうがいなから、博多の東急ハンズで購入しました」と伝えると、そこはあっさりと「さようでしたか」と。誰が対応しても、このあたりはこれでスルーするのが一番。心情の浄化にしても、同じです。折れた原因がお客様にあるのか、自社にあるのかが確定できない以上は、初期対応としては無難な判断です。

 ですが、お客様は「無難」をそのままストレートに押し付けられると腹が立ちます。その部分を「受容」でカバーしているのです。行き届いた教育がなされていることがわかります。
 
 そこから現実の問題への解決提案にも改善がなされていました。5年前には、「実証実験を十分にしているので、当社責任で折れることはない」と言い切られてしまい、「普通に使っているに、何を言っているんだ!」と腹を立てたものです。ですが、今回は「まずはお預かりをして、修理費用のお見積をいたしますが、その際に、製品不良の可能性がなかったかどうか、についても検分いたします」という説明がありました。
 これはベストですね。お客様は「自分は普通に使っている」ことを製品が壊れた際の説明でアピールしています。これは無意識に出るものなのでしょう。しかも、キャリーバッグとなると「簡単に壊れるはずはない」と思い込んでいますから。

 この対応の上手さには2つのポイントがあります。1つ目は、「お客様は普通に使っている」と思いこんでいる。だが「普通」の定義・基準が利用者とメーカー側で明確に共有されていない、という事情を考慮した対応の進め方を構築していることです。2つ目は、「キャリーバッグは簡単に壊れるはずはない」というお客様の考え方と現実のギャップを想定した対応を組み込んでいることです。現実的には国際基準に則った製品試験で問題が発見されなくても、想定されていない利用環境により発生するトラブルも0ではないという認識をメーカーが持っているということです。

 そしてこれらの対応には、「利用者目線で壊れることを考えてみる」という「想像力」が強く発揮されているのです。心情の問題の浄化にしても、壊れた時のお客様のお困りを想像してみる、という力が発揮されています。自社の製品に自信をもっていることはもちろん大切なことです。ですが、「お客様目線の想像力」をもたない企業は、技術に溺れるだけの自己満足型経営に陥ります。

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