一人のお客様を大切にできない企業の病巣とは

 「まぁ、仕方がないさ、このお客様は」という判断と感情に支配されたことはありませんか? もちろん、私もあります。そして、その後、苦しみます。「二度と同じことは起こさない。当社にある病巣をつぶさなくては」と。

 企業が受けるクレームには、完全に自社の責任であるケースとお客様の要望をどのように受けとめ判断するのかを問われるケースがあります。

 前者は担当者がすぐに謝罪し、問題解決に向かうことができます。
ですが後者は時として、担当者の暴挙によって思いもよらない方向に対応が進んでしまうことがあります。その対応は他の全社員の心を痛めることにもなります。

 ある企業のCS推進の担当者から、ご相談をいただきました。カスタマーセンターのオペレーターが、「あなたに怒鳴られる覚えはない。
私は法律的に見ても落ち度はない。だから担当は変わりません!」と言い放ったというのです。

 事の発端は届いた製品(キングサイズのベッドカバー)がカタログとイメージが違ったので返品したい、という内容だったそうです。

 ところが、発注者はご主人で、入電者は奥様だったので、ご主人からのご連絡でないと返品手続きはできない、と言い放ったのだそうです。

 当然、奥様は「意味がわからない。夫婦で購入を決め、たまたま夫の名前で発注しただけなのに。こういうことはいくらでもあるでしょう? どうしてそういう言い方をするの?」と反撃。さらにオペレーターは「当社のルールですので」と断り、奥様が怒鳴った、という経緯のようです。

 もちろんこのオペレーターには指導を行うことになりました。
奥様からは、その後は何もご連絡がないそうです。ですが「何かがおかしい。何かが狂い始めている」とご担当者様は感じているが、その理由を明確にできない、というご相談でした。

 こういう「あれ?おかしいぞ」という感覚を持ち合わせている担当者がいるだけでもその企業は幸せなことです。いろいろとお話を伺っているうちに、とんでもない病原菌がカスタマーセンター内で暴れていることが判明しました。

 半年ほど前の部門会議の際に、カスタマーサービス部門の担当者の発表に対して、「一人ぐらいのお客様とのトラブルぐらいの報告は報告書ベースでもいらない」と発言した部門長がいたのだそうです。

 そのうえ「そういうトラブルでオペレーターが辞める方が今は人手不足で厄介だから、問題を大きくするな」と言われたというのです。

 さらに「当社の製品は多くのファンによって支えられている。そのトラブルのお客様は当社のお客様としてのロイヤルティが低いだけだ」とも。

 まぁ、このような愚かな役職者はどこの組織にもいるものです。
ですが、この会議のやり取りがいつのまにかオペレーターには「オペレーターが疲れるようなことを言うお客様には、正しいことを言えば、会社は守ってくれる」という病原菌になってセンターを感染させていたのです。

 CS推進の担当者は、「間違っているに決まっている、とどうして理解ができないのだろう」と嘆いていました。

 私のアドバイスは「あなたがそう思うのであれば、その返品案件の奥様に、すぐにあなたがお詫びのお電話をすることです。そして何を謝ったのかという内容を、実際の対応音源でオペレーターに聴かせることです。たった一人のお客様を大事にできない企業は大病しているようなものだと教えることです」と。

 活況であるとは言えない経済状況ですが、インバウンドや中国ビジネスでの実績があり、ヒット商品を持つ企業はその実績に知らない間に胡坐をかいているのでしょう。

 「一人のお客様を大切にできない企業」は知らない間に「選ばれない企業」に陥っていることに気づかないものです。

 一人のお客様を大切にできる社員を数多く育てることが企業の「未来に向けた選択」です。

 もう一度見直しませんか?「一人のお客様を大切にする企業姿勢」を。

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