顧客接点にかかわる仕事をしていると、応対スクリプトの作成をご依頼いただくことが多くあります。ほとんどが戦略的な施策を組み込んだ事例です。頭をひねりながら、お客様の心をどのように動かしていくのか、という格闘のようなものです。
心を動かすためには、そこまでの会話に「情緒」があり、お客様のニーズと背景をどのように受けとめていくのか、という「技術」が必要です。さらに、その情緒の中で、自社の見解とお客様の要望を合意していきます。
情緒を演出するためには、「美しく耳に残る言葉」を用います。
ある金融企業のご要望でスクリプトを作成しているときに、「みなさん、頑張っているのね。私なんて、のんびりしているからダメよ」というお客様の言葉に、「そんなことはありません。誰でも人生の主役になれるのですから」という言葉を添えました。
想定内ではありますが、「照れてしまって言えない」と女性社員がさえずっています。「さえずって」いるのです。「できない」という音を出しているだけだから、「さえずって」いるということです。
そこで、尋ねてみました。「そんなことはないですよ。奥様なら、大丈夫ですよ」と言われたときに、その言葉は何日も経った後でも心に残っているでしょうか?と。
私がこだわる「美しく耳に残る言葉」は、お客様が一人でカフェタイムを過ごしているときに、頭にリフレインする言葉です。心と頭にささやく言葉です。
顧客接点の成果はその場で出現するとは限りません。長い顧客との関係性の中で、選択順位1位の存在として信頼を得続けるためには、流れる言葉よりもとどまる言葉が必要です。
「照れる」ことなんて今の時代に合致しているのでしょうか?
アイフルという会社のCMで大地真央さんが「そこに愛はあるんか?」と何度も訊き返す場面があります。とても耳に残る言葉と音です。
こんな台詞はなかなか日常の中ではいえないものです。ですが、心に響きます。
SNSは本音をどのように演出して発信するのかが、ビジネスのようなものであり、それを受けとめる土台を時代変化が作り上げました。
多様な感性の言葉が溢れています。直木賞を受賞した真藤順丈さんの「宝島」には、ルビが沖縄言葉で振られています。
だから心が動かされ、ひきつけられるのでしょう。これが情緒です。
照れていては、誰の心にも「かかわること」ができないのです。
「人生の主役になれるのですから」という言葉を照れるということは、自分に自信がないからなのでしょう。そういう心持ちの担当者とこれから付き合いを続けようと思うものでしょうか。
私が指導しているコールセンターでは、必ず「お寒い日が続きますが、どうぞ、健やかにお過ごしください」「もうすぐ桜の季節です。気持ちの良い朝をお迎えください」というように、言葉を添えています。
まだまだ、美しい言葉と言えるほどではありませんが、お電話口のお客様が終話後に「心地よい時間だ」と実感していただければ、それだけでも意義があります。
AI・ロボットの時代だからこそ、情緒を演出した時間を顧客接点に取り入れたいものです。