築地の某立ち食い寿司で遅めのランチをいただきました。6月1日から営業再開したとのことです。板前さんはマスクにフェイスシールドを着け、カウンターには仕切りのビニール。風情は変わりましたが、忙しい時の立ち食い寿司はビジネスマンにはありがたい。何せ腹持ちと気分的な満足感が違いますから。
このお店はかなりの人気店で、食べログでも4.3以上をとっており、近くを通るといつも満員で外に行列ができていました。土日には、1時間待ちも普通だったそうです。有名な水産会社系の複合型のお寿司屋さんです。持ち帰り店舗販売、立ち食い店舗、回転ずし、カウンター店舗など幅広い事業態。
高齢の板前さんでしかもマスク&フェイスシールドなので、説明がよく聞き取れないところはありましたが、なかなかのお話でした。「ウチの会社は江戸前寿司の大衆化を目指しているから、こういうコロナのご時世でも売り上げには困らないどころか儲かっているんですよ。この店は2か月休んだけれど、私しゃ、何も心配せずにいられました」とのこと。
CSポイントは「チの会社は江戸前寿司の大衆化を目指しているから」という板前さんの言葉です。ふ~ん、と思いながら話を聞いていたのですが、気になってスマホ検索すると、「すしの大衆化を目指す」という経営理念の文字が目に飛び込んできました。
素晴らしいことですよね。2000名以上の社員を抱える会社の社員、しかも中途採用の高齢職人型社員の口から、経営理念がすんなりと出てくるというのは。なかなか目指していても徹底できないものですから。
その会社のホームページを見ていると、「えっ?!」と驚くことが。数年前から気になっていた「日本すし学院」を開校していたのはこの会社だったのです。教育用のStudioまであるではないですか!ということは、海外に進出した寿司店に鮮度の高いネタを航空便で送るビジネスをしていたのもこの会社だったのです。
「すしの大衆化」という理念のもとに、次々と総合型寿司ビジネスを展開していたということです。なんだか、「〇〇すし」「〇〇ロー」などの回転ずしのトップ売り上げを競う会社の皆さんのあり様とは次元の違う経営姿勢を感じるばかりです。
回転寿司チェーンは、ドライブスルー型に切り替えて、自粛期間を乗り越えようとしましたが、思うような数字は出せませんでした。一方、「すしの大衆化を目指す」会社は、長く、業態を多用にデザインしていたので、コロナで窮することはなかったそうです。
駅近に展開する小型の持ち帰り寿司、駅ビル内にあるテイクアウトができる回転寿司、百貨店内にあるグレードアップした持ち帰り寿司などが、ステイホーム期間の食卓に貢献したということです。
「すしの大衆化」をするためには、どうしたらよいのかを試行錯誤してきたのでしょう。来店客の声をベースに、次から次へとサービスをデザインしてきたということです。「大衆化」ですから、「来店客の声、目線、期待」がまちがいなく、活かされているのです。職人の育て方に「新手法」をいち早く取り入れたのも、目指す経営理念があったからでしょう。まさに、CSを経理戦略として位置付けているということに他なりません。
「すしの大衆化」は江戸前寿司の成り立ちそのものでもあります。高級すし店、大型回転ずし店の売り上げが激減する中、CSを経営理念に位置づけ、そこにまっすぐに向き合う経営、現場社員の取り組みが「勝ち抜くビジネス」につながったといえます。
ある回転ずし店本部が、年収3000万円の社員を募集したことを思い出しました。そのニュースを目にしたときの違和感の意味を理解した気がします。
「大衆化」という「お客様にとっていつも一番の寿司屋」というストレートすぎるほどのCS表現に驚かされながら、ランチ980円(税込)をいただきました。「築地すし兆本店」の漬け鮪の味は絶品でした。
経営理念を全社員が理解した行動をすることの意義と、経営理念とCS実践の直線的なつながり方を堪能させていただきました。